かんな座

“俳優橋本環奈”と映画・ドラマの味わい方

環奈・萌音の違い?『千と千尋の神隠し』配信鑑賞は味わい深い

名古屋・御園座
名古屋・御園座

橋本環奈、上白石萌音はどう違う?。コロナ中止で再観劇叶わず、劇場そのままのネット配信を時間の許す限り鑑賞してみたら、とても味わい深かった。

環奈代演!大千秋楽ライブ配信で細かく鑑賞

「ここで働かせてください」
湯婆婆初対面の(有名な?)くだり。こどもらしい高い声とセリフ回し。環奈千尋独特の“少女感”の表現がうまくはまっている。

ただ今回についてはベストパフォーマンスか?と問われると、大千秋楽でちょっと気合いが入りすぎたかな。大阪千秋楽のほうが全体としてはもう少し自然な少女感が全体にあったように思う。

とにかく表情、所作も基本的に「近く」で丸見え。劇場で追えなかった表情が全部見られて取りこぼしを補うには余りある配信の良さ。ただ、雑巾がけのシーンは環奈のデカいケツが見られるのに「引き」の画だったのが残念(?)。

千尋役 環奈と萌音の違いとは

橋本環奈
上白石萌音
環奈と萌音(動画より)

環奈と萌音が交代で演じる千尋。配信で見比べるとその違いが興味深く、それぞれ趣があると思った。

環奈の千尋

環奈の千尋は萌音と比較した場合のイメージを無理やり一言で言い表せば「良い意味で(一般的な意味でいうところの)アニメっぽい」かわいらしさがある。

声はこどものように甲高く、仕草や表情は萌音の千尋と比べると少し強めに感情が外に出ている。かといって不自然というわけではないレベル。

演じ方としては、「10歳感」を表面に出しつつ役を演じる感じ。2工程。

萌音の千尋

一方、萌音の千尋はこれまた無理やり一言で言い表せば「ドラマっぽい」。

“生身”の少女の心情を生き写しにする。

演じ方としては、内面に10歳少女を宿している感じ。1工程。

声は少々大人に近いかなと感じるときもあるが、偽りのないような演技によって観る者を物語の中の状況に引き込む力があるのだ。

このように演技スタイルがまるで違う。

どちらを選ぶかは個人の好みの話で「どちらが優れているか」と考えるのはゴッホゴーギャンどちらが偉いかみたいな論争くらい無意味だと思う。

同じ役でも演じる役者によって少し違うのが楽しい

湯婆婆

朴璐美は(一般的な意味で)アニメに出てきそうな支配者ババア感。多彩な声色変化や強弱緩急つけたセリフ回しでクセの強い魔女を表現。ミュージカルな動きも。

夏木マリはまるで「洋画」吹き替えのような安定した支配者ババア。そもそもオリジナル湯婆婆なわけだけども(すまん原作未見なので)。

ハク

醍醐虎汰朗はまるで少女漫画の王子様。その放つ声の甘美な雰囲気は、千尋との関わりでは「憧れ」対象をよく表している。

三浦宏規はやや演劇調に近い貴族感。ハクの正体を考えると合っているし、深みのあるセリフ回しは場面が引き締まる。

どちらが優れているかではなく、それぞれカラーがあるということ。

リン

こちらは逆に咲妃みゆと妃海風でほぼ同じに見えるからこれはこれですごいなと思った。さりげなく宝塚歌劇団出身者のレベルの高さを見せつけられた気がした。

ダブルキャストは様々な役者の持ち味が組み合わさり各回でちょっとずつ違いが出ていて、それはまるで客の雰囲気でレシピを少し変えるオリジナルカクテルのようで楽しい。

配信ならではの発見も

ところで今回配信を観て思ったのは、両人ともハクが龍に変身するシーンの身のこなしはお世辞なしに美しく、凛々しい。醍醐のハクは劇場で観ているのに初めて思った。役者までの「距離が近い」配信ならではかも。人外生物への変身をそのような所作と技で再現するのかと驚くし、目を楽しませてくれる。

緻密でダイナミックな舞台 演出の凄さを改めて感じる

「油屋」の大掛かりなセット、場面の区切れなく目まぐるしく変わる舞台装置に様々な仕掛け。

千尋の置かれた状況と心境を表した音楽の生演奏。

歌はあるけど主役は歌で語らず、ダンスもあるけど不自然さを生まない組み込み方。

そして、脇役キャラの大げさにならない〈アニメ風味の〉ちょうどよい演技。

これらがうまい具合に噛み合い、異世界に迷い込んだ千尋の物語が舞台上で見事に表現されている。

ジョン・ケアードの卓越した演出とそれを作り上げたカンパニーの凄さを改めて〈いや、近く深く〉感じることができた。

 

 

環奈の大舞台は誰にも想像できなかった

大千秋楽挨拶する環奈(動画より)
大千秋楽挨拶する環奈(動画より)

環奈が俳優業に一本化してから早くも5年が経過。当サイトも同じ期間俳優環奈を追いかけてきた。

作品に出る度にレベルアップを世間に見せつけ、結果を積み上げてきた環奈。

とはいえ23歳にして帝劇や御園座という大舞台で単独主演を務める俳優に成長するとは5年前には誰にも予想できなかったのではないか。

図らずも上白石萌音の代わりに最終日の大役を任された。大千秋楽を迎えた「実感がない」と言っていたのに劇の後の「第三幕」的挨拶の場で号泣のスイッチが入ったのは本来出るはずだった萌音の音声メッセージがサプライズ演出で流れたときだった。

博多では自身のコロナ感染のために萌音が代演。
今回は逆に自分が萌音の代演。
舞台に立てなかった悔しさ。その気持ちがわかるからこそ、追い込まれてなお支え合おうとする戦友のメッセージに普段あまり弱さを見せない環奈も堰を切ったように涙が流れ出た。

環奈の心の内側が現れた滅多にない機会となった。

超人気作品の舞台化。5都市を巡る約4ヶ月間の公演。「不可能」ともいわれた本作を演者、裏方、劇場が一体となって物語世界を作り上げてきた。

鳴り止まない拍手の中何度ものカーテンコールを終え、流れてきたエンドロールの一番最初の名前「橋本環奈」には、いつになく重みが感じられる。

当サイト筆者も大阪で一番後ろからとはいえ生で観劇でき、環奈の歴史の重要な1ページの現場に立ち会えたことは極めて貴重な経験だったことを改めて心に刻みつけておきたい。

コロナ対策が半分失敗した舞台でもあった。何よりも感染した関係者の快復を祈念するとともに関係者と観客の健康を第一に考え、そして中止による観客の悲しみを生まないようにするためにもここで改めて演劇界における感染対策の見直しを求めたい。

記事

本記事は『[舞台]千と千尋の神隠し』(2022年)下記回の鑑賞を元に執筆しています。

劇場で観劇:

※ちなみに6月28日夜(橋本環奈主演回=名古屋・御園座)の観劇も予定していましたが中止となりました

Huluストア配信を視聴:

※4日は出演できなくなった出演者を補うため1回限りの配役がみられます

kannareview.hatenablog.com