かんな座

“俳優橋本環奈”と映画・ドラマの味わい方

小説の神様 - ドラマ盛り上がらない青春ロマンスもどき

小説の神様 君としか描けない物語
小説の神様 君としか描けない物語

「夢のように楽しい」世界を描ける天才女と底辺男のコラボはあまりに青すぎるお花畑で作中小説を超えられていない?。落ち着いたトーンの中で際立つ橋本環奈のドS演技のお得感。

“ドラマCM”では心動かない

千谷一也ちたに・いちや佐藤大樹)に小余綾詩凪こゆるぎ・しいな(橋本環奈)がプロットを話すとき、身体は浮かびあがり、幾千ものきらめく星が舞う幻想的な草原の中へ連れて行かれる―。

詩凪の描く物語が「いかに楽しい世界か」ということをファンタジーな映像で見せる久保監督お得意のミュージックビデオ風演出は部分的なたとえに止まっていて無理やり感はないからまあいい。

気になるのは本筋部分。「生身の人間が今ここにある社会を生きている」感じがいまいちしない。「作られたドラマ」の感じが終始拭えず、感情移入できないのだ。

同じ学校に2人もプロの小説家がいる。その2人は訳あって共作(合作)に取り組む―。

これだけ聞くとかなり独創的で斬新なのだが、いざ蓋を開けてみるとストーリー展開はありきたりな青春ロマンスもどき。

壁にぶち当たるけど2人でやれば乗り越えられるみたいなお花畑思考。しかもその壁の一つはクリエイターなら誰でも経験する初級レベルのものだったり。

あくまで小説制作はドラマの設定の一つでしかなく、創作に取り組む醍醐味は伝わってこないし、最後に降りかかる災難も取って付けたよう。

役者が真剣に演じれば演じるほど嘘くさくなってしまう。

この感じはドラマ仕立てCMにそっくりだ。最後に「◯◯生命保険」とでもロゴを出しておけばしっくりきそう。

それに「学校に2人も小説家」の設定を十分に活かしきれてない。

2人の合作も編集者・河埜こうの山本未來)の提案だし、同じ学校である意味があまりない。

文芸部という軸はあるけど、身バレハラハラ感なんてゼロ。文芸部長の九ノ里正樹くのり・まさき佐藤流司)なんて後輩の成瀬秋乃(杏花)に2人の正体をあっさりバラしてしまうし。

校内に2人も内緒で作家をやっている生徒がいるならいくらでも波瀾を作り出せそうな気もするが…。

小説制作云々の前に小説並みのドラマを見せてほしかった。作中で語られる「小説は人の心を動かす」こと自体がこの作品にないのはとても皮肉なことだ。

際立つドS

作品自体が地味だから環奈の詩凪のSっ気が際立つ。

1往復半ビンタ、机の下で足蹴り、上から目線。

「あなたのような底辺作家に断る権利なんてあると思ってるの?」。

畳み掛けるような命令口調が最高。意外にも序盤でM男向けシーンが続くお得感。

微妙な関係性を再現する環奈

雨の後の共同作業シーンの距離感。

詩凪「あたし、初めてなの。誰かが小説を書いているところを見るの。」

なんか色々考えちゃう。

創作は自分の内面晒しだからそれを共同でやるということはある種裸の付き合いみたいなもので関係性が一段深まった見立てとしての間接的なエロさ。

そーいう機微を深く理解して再現している感じこそ環奈のさりげなくうまいところ。

あと終盤の病室シーンなんか少し変えるだけで出産シーンにスライドできそう。

作品にはまってくると役もはまってくる環奈の特徴が出ていると思う。

ファン以外には退屈かも

駄作というより弱作。いまいち盛り上がらず全体として単調、画は美しいかも知れないけど話に深みもなく、引き込まれないまま終わる。

金を払って2時間弱鑑賞するという意味で、残念ながら出演者ファン以外の人にはおすすめできない。環奈作品では珍しいことだけど。

【3.0】

filmarks.com

作品データ・視聴情報

小説の神様 君としか描けない物語
種別 映画
製作国・公開年 日本 2020年
年齢制限(日本) G(なし)
出演 佐藤大樹EXILE/FANTASTICS)/橋本環奈/佐藤流司/杏花/莉子/坂口涼太郎山本未來片岡愛之助和久井映見
監督 久保茂昭
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