かんな座

“俳優橋本環奈”と映画・ドラマの味わい方

十二人の死にたい子どもたち - 意外と真面目なミステリ

十二人の死にたい子どもたち
十二人の死にたい子どもたち
映画『十二人の死にたい子どもたち』(2019年 日本)。何やら重いテーマを背負ったタイトルの映画を遅ればせながら拝見。不謹慎なタイトルから漂うイメージとは全く逆かもしれない。始まったら2時間、ずっと観る者を釘付けにしてしまう。

きけ、死にたいわかものの声

語られる「死にたい」理由は悲惨なものが多くて感情移入はできないけど、胸をえぐられる。生きるとは何か、生きるのに必要なものとは何なのか根源を突きつけられている感じがして。

ただ、彼らの「死にたい」は結局、傷つけられ蔑ろにされた自分の価値というものの改めての誇示、示威、デモなのだ。

「生まれてきてしまったことに対する抗議」という主張はあまりに重い。「死にたい」とは現状に対する静かな反発だったりする。あるいは偽りの価値を脱して本当の自分を取り戻す自己決定として。

だからこそ矛盾する。踏みつけられた抗議なのに自分で余計に踏みつけてどうするんだと。『惡の華』(押見修造)と同じなんだよね。魂の叫びなわけで。そこが思春期の葛藤そのものであって。

限られた空間の中で最大限魅せる

7番アンリ杉咲花)が「死にたい理由」を明かしたときは、もう悲壮感漂うアンリの辛い「現実」に共感してしまう。いやこれはフィクションだ。

そういえば開始から1秒たりとも目が離せず没入してしまっている自分がいる。出演者の高い演技力が現実感と緊張感、そして臨場感を生み出しているのだ。

廃病院というワンシュチュエーションの中で繰り広げられる会話劇。長回しが多用され、演劇を観ているような感覚にもさせる。

これに巧みなストーリー展開とどこか怪しいカットが続く映像表現が組み合わさって奥行きのあるサスペンス・ミステリー映画に仕上がっている。

乱闘シーンとか銃撃戦がなくても見応えある映画は作れるんだ。主役がコスプレしなくていいんだ(福田雄一作品の見過ぎ)。1秒も退屈しないという意味で日本映画も良くなったなと実感(観ていなさすぎ)。

橋本環奈の冷たく沈んだ表情

キャスティングって時に意地悪だ。「大人に利用されている人気芸能人」4番リョウコを「人気芸能人」橋本環奈が演じる。だからつい重ねて見てしまうじゃないか。

帽子とマスクで隠していた顔を晒したときに見せる冷たく沈んだ暗い表情。はっきりと表情に出る絶望感。

やはり人気芸能人って偽りの自分を演じて大変なのかなと。いや演技だろ。

私事で恐縮だが、実は先日環奈ファンやめた。いつも考えてばかりで仕事にならないからだ。

好きすぎると何かあったら本当に廃病院行かなければならなくなっちゃう。「ゴスロリ風のバンギャ3番ミツエ(古川琴音)みたいに。

だから2019年4月以降は情報入れてないからよく知らない。いくつかの映画出演の話はほっといても伝わってくるけど。

ところで12人はさりげなく表情とか雰囲気に敗北感を漂わせていて、妙に生々しい。特に10番セイゴ坂東龍汰)。一見派手な容姿の不良兄ちゃんからなんとなく伝わってくるどこか寂れた雰囲気。死ぬ前の人ってきっとこうなんだろうな。

真面目で愛のある良作

「死にたい子どもたち」なんて不謹慎で教育上よろしくないタイトルなんだけど、自殺とか死そのものを面白おかしく扱った変態作品では決してなく、人の生とは何か。人の価値とは何か。なぜ死を選んだのか。そもそも生きることとは何なのか。

悲惨な境遇を背景に生命に向き合う若者の葛藤を描いた深い作品でかつ推理ものとしての謎解きの面白さがある。

さすが“本読み”橋本環奈が「これ面白いよ」(タメ口!)と原作を所属事務所社長に話していただけある。

自殺願望のある12人の密室に連れて行かれて逃げ場がない。メゾンドレンタン。他人事ではすまない。きっと12人の人生に耳を傾けたくなる。

【4.0】

作品データ・視聴情報

十二人の死にたい子どもたち
種別 映画
製作国・公開年 日本 2019年
年齢制限(日本) G(なし)
出演 杉咲花新田真剣佑北村匠海高杉真宙黒島結菜、橋本環奈
監督 堤幸彦
現在観る方法 配信、DVD等