かんな座

“俳優橋本環奈”と映画・ドラマの味わい方

万博の太陽 - 橋本環奈単発ドラマを観てみたら意外な感想に

万博の太陽
万博の太陽

アンチを呼ぶ?橋本環奈主演単発ドラマは意外な感想に。あの“国威発揚行事”がテーマの作品を他人の感想を一切見ないで完全視聴レポ。

あらすじ

1968年、東京の下町で育った朝野今日子(橋本環奈)は高校卒業後、家業の畳店を手伝っていた。早世した父にかわって畳店を切り盛りする母・陽子のために少しでもいい結婚をして安心させてあげたいと思ってはいるものの、好奇心旺盛で猪突猛進な性格が災いして断られてばかり。

今日子の最近の頭の中は再来年、大阪で開催される万国博覧会のことでいっぱい。東京オリンピック(1964年)に感動した日々を忘れられず、大阪万博への期待に胸を高鳴らせていたのだ。その日も見合いの席で「私の夢は万国博覧会で世界中の人たちとつながることです!」と熱弁をふるって惨敗してしまう。

しょんぼりする今日子のもとに舞い込んだのは、大阪行きの話だった。陽子の兄、つまり今日子の伯父・万田昭太朗唐沢寿明)の工場が人手不足で困っているというのだ。しかも、工場は万博会場のすぐ近く。今日子は建設中の万博会場を見てみたい一心で、大阪に旅立つ。

今日子が暮らすことになった万田家は地元の大手電機メーカーの下請け工場を営んでおり、昭太朗の妻・和世江口のりこ)と、従妹にあたる女子大生の千夏(飯豊まりえ)、小学生の博士(番家天嵩)の4人暮らしだった。千夏は地元の女子大学で学んでいたが、女性の幸せは早く結婚して子どもを生むことだと信じる昭太朗は娘のために取引先の重役に頼み込んで見合い話を持ち帰ってくる。相手は、世界的建築家の設計事務所に勤める倉本鉄平木戸大聖)だった。エリートだが、まったく気取ったところのない鉄平に、千夏は好感を抱いた様子で…。

そんなとき、千夏は大学の教授から万博のパビリオンで働くコンパニオンに推薦される。しかし、頭の固い昭太朗はもちろん大反対。「女は世界なんか知らなくていい。早く結婚して子どもを生め」と頭ごなしに否定する昭太朗に、今日子は「なんで伯父さんが千夏の生き方を決めるの!?」と爆発。文句があるなら出ていけと怒鳴られてしまい…。

やがて東京に戻ることを決意した今日子。すると、千夏がどうせ帰るなら記念に挑戦してみようと、コンパニオンの応募書類をもらってくる。しかし、コンパニオンは関西の女子大生を中心に推薦で決まってしまうことが多く、今日子にとっては夢のまた夢で…!?

(公式より)

曰く付き?だけど心配無用な理由

万博の太陽
万博の太陽(サムネイルより)

この作品への環奈の出演が決まった時、あまり良い気がしなかった。放送時期的にどう考えても「2025年に大阪で開催しようとしている万博」の気運を高める目的なのは見え見えなわけで、世論を二分する中で国家的行事の推進役を担うことになることを意味するからだ。

かつての大阪万博が当時の人々を熱狂させたという事実を元に好感度の高い環奈を起用したサクセスストーリーを描き出せば、きっと「万博は素晴らしいもの」と今の人々に高揚感をもたらし、2025年万博の問題点を覆い隠して開催への期待感を植え付けることにつながりかねない。

そんな世論操作に推しが加担することは苦痛でしかない。今後、「都市博」みたいに形勢逆転した時、失政の片棒を担いだ人物(“市民の敵”)として環奈自身もイメージに傷がつきかねないのであまり良くない仕事だと思ったのだ。

でも心配は無用だった。

「万博がいかに素晴らしくてすごいのか」がこれほどまでに伝わってこないプロパガンダドラマはそうそうお目にかかれないと思う。

凝ってはいる…

キャラに何か惹きつける魅力があるとか、状況にキレがあれば良いんだが、「五輪に感動し万博に期待する」主人公・今日子を取り巻くホームドラマ的なノリでは開始10分で飽きる。フックが弱いというかフックがなさすぎる。

中盤から終盤にかけてはドラマとしていくつか山場を作ってくるが、「岡本太郎」のくだりは結果がわかりすぎて盛り上がりに欠けるし、〈夢のような家電〉を紹介するくだりも当時の人々の驚きが伝わってこない展開と演出が下手。

ホームドラマテイストで描いたライトなサクセスストーリーであって、中小企業の悲喜交々や女のキャリアというテーマを織り交ぜ、さらに中園ミホらしく(?)ラブ要素も練り込んでくる凝った脚本ではあったが、半世紀前の時代感覚を再現したところでそれだけではドラマとしては物足りないし、しっかりとした“売り物”が見えてこないので戸惑う暇もないほどの薄味といった感じだった。

環奈が演じる主人公は?

今日子を演じる環奈は、誰が依頼したんだか前半でオーバー気味のコミカル寄り演技も多く、やや「ハズレ」演技な印象。役者の力でキャラを立たせて作品を引っ張っていくのはまだ苦手だよなあとも感じる。「ハマる」のはうまいが「作る」のはもう一つなんだよね。

後半の怒りと嘆きの演技で「誰か死ぬんじゃないか」と思わせられるのは環奈作品観すぎの人だけに現れる副作用。クセのある作品や役のほうが似合う理由が改めて垣間見えた感。

まとめと評価点数

苦労を経て夢が叶った瞬間の描き方があまりに淡白すぎて、疑似達成感が全く得られなかった。どれだけ“万博推し”にさせられるのかと少し警戒して視聴していた身としては、予想外の尻すぼみに拍子抜け。途中のストーリー展開もパンチが効いておらず感動も興奮もさせてくれることがないし、予定調和の連発には何の感情もわかない。

フラガール』(2006年)どころか朝ドラの足元にも及ばないというか、比較するのは残酷すぎる。

【3.0】

作品データ・視聴情報

万博の太陽
種別 テレビドラマ(テレ朝系)
製作国・放送年 日本 2024年(2024年3月24日『ドラマプレミアム』)
出演 橋本環奈/飯豊まりえ/木戸大聖/番家天嵩/堀内敬子野間口徹宇梶剛士高畑淳子江口のりこ唐沢寿明
脚本 中園ミホ
監督 田村直己(テレビ朝日