環奈が見せる憂鬱。視聴者が自身を重ね合わせられる役をやるのがちょっと新鮮。「えっ?誰かいる?」一度は経験したことあるような身近な状況での背筋凍る体験は、ソフトだけど入門的ホラーで好感。
イントロ
薄暗い階段を下りた先にある不気味な地下倉庫…。ひたすらつきまとうこの世ならざる女…その正体とは!?(公式より※読点を修正)
憂鬱環奈に連れて行かれる不気味な世界
ドラマパート『凶音の誘い』。
コールセンターでアルバイトを始めたちょっと内気な峰岸玲奈を橋本環奈が演じる。
ここ数年よく見かける“しぶ環奈”。後ろ一つに縛ったポニーテールでよく見える顔の表情。
“顔で語る”ような心情のニュアンスを伝える毎度おなじみ多彩な表情演技が生きている。夢はあるけどくすぶっている役の憂鬱な表情が作品テーマにマッチしていて得体の知れない世界に引き込んでいく。
広く開いたネックラインの視聴者サービスが怖さをちょぴりわさび抜き。
なんだか気が進まない地下倉庫に誰もいなくなった(はず)の夜の薄暗いオフィス。
他の人には見えない裸足女がきいきいと清掃カート(?)の音を立てながらひたひたと近づいてくる。
逃げる環奈。追う裸足女。
おい、逃げているのになんで閉所に入るんだ?的な展開がホラーの典型で初歩な感がある。
戦慄体験誘う演技
他に誰もいないはずの夜のオフィスに誰かいる?といった多くの人が一度は体験してそうなあの不気味な怖さ。
環奈はこの寒気を嘘っぽくなく演じている。
華がある役でなく視聴者が自身を重ね合わせられる役をやるのがちょっと新鮮だし、それだけ役者としても人間としても大人になったというわけで頼もしくもある。
それから環奈専用ヒール役(違う)の恒松祐里が今回は‥。相変わらず嫌悪の表情がリアルすぎ。でもそれこそが恒松の特徴。舞台が引き締まり、主役が引き立つ。
本作も作中キャラでは初めて得体の知れない現象に接した伊藤麻美の役どころによって、不気味ドラマの主役の立場にいっそう深みが増す感じなんだよね。
そういうポジションを務められるのだから皮肉とか冗談じゃなくてさすがだと思う。
テレビで気軽に“背筋ゾクッ”は悪くない
背筋がゾクッとする体験ができるオムニバスドラマ。トラウマにならないレベルで。
他のドラマパートを含めてもホラードラマとしてはソフトだし、オーソドックスな展開で『世にも奇妙な物語』ほど巧みなストーリーというわけでもないが、「身近な」建物で起きる不思議で不気味な体験。
下積みバイト先のオフィス(『凶音…』)だとか転勤先の賃貸マンション(『事故物件A』)…。
題材と舞台選びが良いよね。多くの人にとって現実感のある設定だから余計怖い。
例えば、「南極の基地での恐怖体験」とかだったらピンと来ないわけでね。
最初「心霊」番組ということで「おい1980年代じゃないんだから。今時どうなのよ」と思っていたけど、今、日本の地上波のプライムタイムで堂々とホラードラマをやれることは称賛に値する。
総合放送は多様性がほしいわけでいろいろなジャンルの入門的コンテンツは必要だと思うからだ。日本の地上波の中身がすごく狭くなってきている中でこういう“異色エンタメ”を突っ込んでくるのは悪くない。
夜中に部屋暗くして「ぎゃーっ」。ハマったもん勝ちだと思うよ。
【3.5】 お手軽入門ホラー でもB級感はない
作品データ・視聴情報
ほんとにあった怖い話 2021特別編 | |
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種別 | テレビドラマ(フジ系) ※フリートークとドラマパートで構成 |
製作国・公開年 | 日本 2021年 (2021年10月23日 『土曜プレミアム』) |
出演 | 凶音の誘い:橋本環奈/恒松祐里/山中崇 |
監督 | 凶音の誘い:森脇智延 |
観る方法 | 配信(FOD) |