かんな座

“俳優橋本環奈”と映画・ドラマの味わい方

職業=橋本環奈? 酒飲み対談でわかる仕事観 意外と深い話

日本酒
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ゲスト橋本環奈の「役に生きる」プロ意識がよくわかる。『シュガー&シュガー サカナクションの音楽実験番組』(NHK Eテレ)第2回。初放送は2019年9月25日。今更だけどここに紹介したい。

環奈が考える「役作り」とは何か

重複出演は避け、撮影終了後は次の作品まで時間を設けたい。役作りは描かれない部分も意識するし、気付かぬ内にプライベートでも役の性格になっていることもある―。

「役として生きる」。真摯に映画・ドラマに取り組んでいる環奈だが、俳優の仕事は自分とは別の人間を形作っていくことではないという。それはいったいどういう意味なのか。

山口一郎(山):環奈ちゃんってさあ、「橋本」とか「環奈」じゃなくて「橋本環奈」じゃん。なんかそれってやっぱり自分で意識してんの?
橋本環奈(環):してますね。すごいうれしいです。そう言ってもらえて。
:「橋本環奈」ってフルネームでいいたくなるよね。
:そういうふうにしたいってずっと思ってます。小学生のなりたい職業ランキングで一位「YouTuber」だったんですよ。四位に「橋本環奈」って。職業だったんだと思って(笑)
:それすごいことだよね。
:なかなかないですよね、ほんとに。
:言い方はちょっと悪いかもしれないけどさ、ブランディングってことでしよ?
:まあそうですね。セルフプロデュース的な要素はあるかもしれないです

kannareview.hatenablog.com

:“女優スイッチ”みたいのが入ったのはいつごろなの?
:16歳の時に初めて『セーラー服と機関銃 -卒業-』っていうので主演やらせていただいて。女優っていう職業に向き合いたいって思いました、その時に。
:カメラの中で自分じゃない自分を演じるわけでしょ?それってどういうことなの?
:向き合うってことをやってるといかに自分が薄い人間で中身がないかっていうのを感じさせられる仕事だと思うんですよね。形成していくっていうよりは剥ぎ取っていく感じの方が近いと思いますね。
だから「橋本環奈」っていう実像をブランディングして作ってるわけね
:そうそう、そうです。
:末恐ろしい20歳だな。

そうか。すっかり勘違いしていたことに気付かされた。

自分の中にないものは出せない

それで思い出すところ寺脇康文のインタビュー。駆け出しの頃、ある演技で毎回劇団の座長である三宅裕司に指摘されることがあったという。

たった一言(のセリフ)でずいぶん苦労させられました。三宅さんが、あの口調で言うわけです。「えー、寺脇、熱気がない」。
考えてみると、自分の今までの人生の中で大声を出して叫んだりすることがなかったのに気付いた。「そうか、自分の中にないものだから出てなかったのかな
ビープラス 寺脇康文インタビュー

いいたいことが似ている。自分の中にないものは出せない。じゃあその逆〈自分の中にあるもの〉でいいかというとこれが難しい。

俳優は普通に生きていたら湧いてこないような感情表現を求められるからだ。殺人犯の心理しかり、漫画キャラしかり。以前福田雄一が「振り切った演技は素質がないとできない」みたいなことを言っていた。

セーラー服と機関銃 -卒業-』で環奈のあのリアリティある怒りや憎しみの表現が評価されたのも「剥ぎ取っていった」結果か。元々「ある」負の感情に向き合うことで「出せる」ようになる。だからネット論客の目に留まるほどの印象を残したのだろう。

だから「役者とは、演技とは何ぞや」と考えても意味がないんだな。技能以前に俳優自身の“人”が問われるというか。とことん「橋本環奈(の実像)」に向き合って、「橋本環奈(の実像)」を掘り下げていくしかない。

もし環奈がドエロな不倫映画に出たら。

不倫経験があるとかないとか単純な話じゃなくて後めたいことに溺れる心理をアウトプットできるだけの何かを既に持っているってことになるわけだ。

実際にはまもなく殺人者役が待っている(WOWOW『インフルエンス』)。役の抱える闇が橋本環奈の実像とどう重なるのか。そう考えると映画鑑賞と主演の本質がわかった気もして環奈コンプレ心がくすぐられるよなあ。

今回の話を聞いて環奈の仕事人としての感性は職業芸術家のそれなんだなと思った。アーティスト山口一郎と一瞬で共鳴したところがそれを物語っている。お客の期待に応える“職人”だとばかり思っていたから少々意外だ。